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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)275号 判決

一 請求の原因(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告ら主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1(一) 成立に争いのない甲第二号証の一、四によれば、本願、明細書及び昭和五七年六月二四日付け手続き補正書(以下「補正書三」という。には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

本願発明は、少なくとも直角二次元における変位測定装置に関するものである(明細書第四頁第一四行及び第一五行)。従来、枢動の中心を含む軸面で枢動するようにハウジングに支持された針を有するプローブと、軸から隔離した位置において針とハウジングの間に配置されたセンサとを備え、軸に対して横方向における針の加工品接触端の変位を感知する変位測定装置は公知であるが、本願発明は、右公知の変位測定装置において、軸方向の変位をも測定できるように改良することを目的として(明細書第四頁第一六行ないし第五頁第三行)、特許請求の範囲第1項(前記本願発明の要旨)記載のとおりの構成をした。本願発明は、右構成を採用したことにより、プローブにおいては、針が軸にそつて移動するようにハウジングに支持され、第二のセンサが少なくとも前記軸にそう針の変位を感知するように針とハウジングの間に配置され、二つのセンサがそれぞれ出力を有し、これら出力がこれら出力間の差を定める信号を形成する手段に接続されており、横方向変位を別個に測定できるという作用効果を奏するものである(明細書第五頁第四行ないし第一二行)(別紙図面(一)参照)。

(二) 一方、成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例記載のものは、輪郭再生装置、特に、一個以上の総形素子を有する材料工作工具、例えば型板より、形状の複製をなす電気信号を供給する追跡ヘツドに関するもので(昭和三六年特許出願広告第一二三九四号公報第一頁左欄第九行ないし第一二行)、型板を追跡して型板に体現されている輪郭を再生するために、材料工作工具の三個の次元における運動を制御する信号を与える追跡ヘツドを得ることを目的とし(同公報第一頁左欄第一三行ないし第一六行)、特許請求の範囲に記載されたとおりの構成、すなわち、「従動部の橈みに比例する信号を発生する電気信号発生装置を具備し、一対のほとんど同じ長さに延びる針及び各針に関連し、且各針の夫々の橈みに応動する制御信号発生装置を具備し、前記一個の針は、二個の次元において橈むように支持され、他の針は第三次元にいて橈むように支持されることを特徴とする輪郭追跡ヘツド」(同公報第三頁左欄第二行ないし第七行)を採用し、右構成を採用することにより、一つの針の橈みは二個の次元における輪郭の変化に応動して制御信号を与え、また他の針の橈みは第三次元における輪郭の変化に応動して制御信号を与え、かつ別個の感応装置、すなわち、選択装置を各針に連結し、それぞれの針の橈みに応動せしめて、その橈みに比例する制御信号を発生せしめるという作用効果を奏するものである(同公報第一頁左欄第一九行ないし第二五行)と認められる(別紙図面(二)参照)。

(三) また、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例記載のものは、レコード盤の記録信号を再生する音響再生方式に関するもので(特許第一一三九二二号公報二枚目第三行及び第四行)、レコード盤における一つの刻溝、すなわち、音軌道における二つのレコードを別々にあるいは同時に再生することを目的とし(同公報一枚目本文第六行及び第七行)、特許請求の範囲に記載されたとおりの構成、すなわち、二つの別個のレコードを一つの音軌道に合成せしめたるレコード、再生針、各自に両レコードに感動する二つの発電素子を有する再生装置及び相隔つる高声受話器に至る二つの再生回路を包含し、而して両発電素子の出力は両再生回路に給与せられたることを特徴とする機械振動により音響を再生する方式(同公報三枚目第一八行ないし第二〇行)を採用したもので、右構成を採用したことによつて、縦刻式レコードは両線輪を同一方向に振動するため、互助関係に接続した対の変成器に連係する回路において再生され、また、横刻式レコードは両線輪を反対方向に振動するため、反対関係に接続した対の変成器に連係する回路において再生され、それによつて、第一の回路では横刻式レコードの再生が平衡され、第二の回路では縦刻式レコードの再生が平衡されて、二つの記録を同時に或るいは別々に再生することができるという作用効果を奏する(同公報二枚目第八行ないし第一一行)ものであること、そして、実施例の記載によれば、レコード39を再生するためのピツクアツプは、レコード39の一つの溝に同時に形成されている縦方向及び横方向の波動を電気信号に変換するもので、単一の再生針24が右溝に係合されると、針24は溝に沿って縦と横とに同時に振動する。この場合に、針24の縦の振動に対しては、二つの線輪16、17を同一方向に振動させ、その振動は四つの真空管27ないし30を同時に駆動し、変成器31ないし34の一次捲線に同位相の信号を付与するが.変成器31、33の二次捲線は同相(互いに助け合うような位相)関係に接続されているのに対して、変成器32、34の二次捲線は逆相(互いに打ち消し合うような位相)関係に接続されているので、縦の振動は、増幅器35で増幅されて受話器36において再生されるものの、増幅器37の入力においては打ち消され、受話器38においては再生されない。一方、針24の横の振動に対しては、発条26の作用により、線輪16、17を縦に互いに反対方向に振動させ、その振動は真空管27、28と真空管29、30とを互いに反対方向に駆動し、変成器31ないし34の右接続によつて、横の振動は、増幅器35の入力において打ち消されるものの、増幅器37において増幅され、受話器38においてのみ再生される(同公報二枚目第一四行ないし三枚目第一二行)という機能を呈するものであることが認められる(別紙図面(三)参照)。

2 原告らは、本願発明と第一引用例記載のものとの相違点に対する審決の判断について、「第一引用例記載のものは変位を検出する変位測定装置であるのに対し、第二引用例記載のものは振動を検出する振動検出装置であつて、右相違に伴い、両者の間には、例えば針の構造、変位あるいは振動を検出するセンサ及び電気回路手段等の点において構造上の違いがあるから、第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとを組み合わせただけでは、本願発明を得ることはできない。また、第一引用例記載のものと、第二引用例記載のものとは技術分野を全く異にするものであるから、変位測定装置の技術分野の当業者が第二引用例記載のものの技術を公知技術として認識していたとはいえない。」旨主張する。

よつて検討するに、本願発明及び第一引用例記載のものは、前記1(一)、(二)で認定したとおり、針の基準位置からの変位を検出する変位測定装置に関するもので、右変位測定装置は針の基準位置からの変位の大きさ及び方向を示す変位量を電気信号の大きさ及び極性(向き)として導出するものである。一方、第二引用例記載のものは、前記1(三)で認定したとおり、ピツクアツプを用いてレコード盤の記録情報を再生する音響再生方式に関するもので、レコードを再生するためのピツクアツプは、レコードの一つの溝に同時に形成されている縦方向及び横方向の波動情報を電気信号に変換し、右信号を四つの真空管で増幅した後、変成器において適宜結合し受話器において再生するものであり、針がレコードの溝の変化状態に対応して振動し、その振動に依存した電気信号を発生するものであることからすれば、右ピツクアツプは、振動の検出装置であると認められる。

ところで、「変位」とは、単に、ある基準位置からの位置の変化の度合い(変化した距離、長さ、方向)を示すものであるのに対し、「振動」とは、時間の経過に伴う変位の変化状態を示すものであることは当事者間に争いがなく「変化」と「振動」との関係についてみれば、時間的経過とともに変わる「変位」の状態が「振動」に相当するものということができるのであり、変位の検出は、変位が生じた際に、単に、その大きさや方向だけを検出すれば足りるのに対して、振動の検出は、変位が生じた際に、その変位の大きさや方向だけでなく、所定時間における変位(変化)の回数等をも検出しなければならないことは技術上自明のことである。そして、本願発明及び第一引用例記載のものは、変位の検出を目的としたものであるから、変位の状態を目視し得るように、変位の状態を保持する電気回路を必要とするのに対し、第二引用例記載のものは、変位(変化)の時々刻々の時間的経過の状態をそのままの形で音響再生するものであることからすれば、変位(変化)の状態を示す信号を多少でも保持する電気回路を排除する必要があるものと解される。

以上の点を総合すると、変位と振動とは機能を異にする物理量であるから、このような異なる物理量を検出するために構成された本願発明や第一引用例記載のものの変位測定装置と第二引用例記載のものの振動検出装置とは、異なる技術的思想をもつて構成された異質の装置というべきであつて、第二引用例記載のものが、本願発明及び第一引用例記載のものと同様な変位を検出する装置であるとは認められない。

そして、検出する対象の相違に伴い、変位測定装置は、基準位置からの機械的変位を検出するものであるため、その針は丈夫な構造をもち、針の支持手段は強固な構成を有するように作られる必要があるのに対し、振動検出装置の針は、レコードの溝の変化を忠実に追尾するものであるため、繊細な構造とし、しかも、針の支持手段は、針が微少な振動あるいは高い振動を発生できるように、針を柔軟に支持するような支持素子を有する構成にする必要のあることは、自ずと理解できる技術常識である。

また、電気回路についてみるに、第一引用例記載のものの電気回路は、内部針と外部針を用いて二方向の変位をそれぞれ別個のセンサで検出し、この検出したそれぞれの信号を針の変位を示す信号として取り出すような構成の回路であるのに対し、第二引用例記載のものは、単一針の動きに対応して、一つのセンサによつて二つの電気信号を検出し、右検出された二つの電気信号を真空管で増幅した後、変成器において適宜結合し、受話器において再生するという電気回路を有するものである。したがつて、両者は、電気回路の構成、機能の点においても相違しており、第二引用例には、針によつて二方向の変位を検出するセンサの出力を変位量として指示するための電気回路手段は何ら開示されていない。

してみると、第二引用例の記載によつて、単一針をもつて二方向の変位を検出するセンサ及び右センサの出力を指示する電気回路手段が公知であるとはいえないのであるから、第一引用例記載のものにおいて、内部針と外部針を用いて二方向の変位をそれぞれ別個のセンサで検出する代わりに、第二引用例記載のものを用いることは当業者が容易に想到し得ることであるとする審決の認定、判断は、誤りであるといわざるを得ない。

被告は、「第二引用例には、ピツクアツプカートリツジの針によつて検出された振動を、スピーカコーンの振動として取り出すことだけが記載されているのではなく、時間とともに変位する変位量としての右針の変位を検出することも記載されている旨主張している。

しかしながら、第二引用例記載のものは、その目的が、前記認定のとおり、針の変位に対応した電気信号を得ることにあるのではなく、右電気信号を所要の電気回路に加え、レコードに記録された情報の再生音響出力を得ることにあるから、針の変位に対応した電気信号を利用して、レコード盤の溝における標準値からの変位量を検出表示する技術手段が存在しているとは認められないのであつて、第二引用例に、時間とともに変位する変位量としての、針の変位を検出することが記載されているとはいえない。

また、被告は、「原告がいうところの、本願発明の装置は、第二引用例記載のものが具備していない針の変位の値を保持する回路を有し、その上、本願発明と第二引用例記載のものとは針の支持構造が異なるとの主張は、本願発明の構成に基づかないものである旨主張している。

しかしながら、前記認定のとおり、本願発明は変位測定装置であり、第二引用例記載のものは振動検出装置である点に違いがあり、この場合、変位測定装置は、変位量を静的に表示するものであるから、時々刻々の変位は右表示から除く必要があり、したがつて、右装置内には針の変位の値を保持する回路を当然に備えていなければならないのに対し、振動検出装置は、逆に、時々刻々の変位の過程を必要とするものであるから、右装置内には針の値を保持する回路は排除する必要がある。また、変位測定装置の針は、基準位置からの機械的変位を検出するものであるから、丈夫な構造をもち、比較的強固に支持された構成を有することが必要であるのに対し、振動検出装置の針は、レコードの溝の変化を忠実に追尾するものであるから、繊細な構造をもち、かつ、柔軟に支持された構成を必要とするものと解される。このように、針の変位の値を保持する回路の有無及び針の構造が異なる点は、いずれも、変位測定装置と振動検出装置とにそれぞれ当然に要求される構造上の違いであつて技術上自明のことであるから、本願明細書の特許請求の範囲に、右二つの点に関する事項が記載されていないことを理由とする被告の主張は、理由がない。

次に、第一引用例記載のものと、第二引用例記載のものとが属する技術分野の点についてみるに、前記認定のとおり、第一引用例記載のものは、型板を追跡することにより型板に体現されている輪郭を再生するための変位測定装置であつて、右装置においても検出した電気信号の処理は電気回路によつて行つているとはいえ、もともと機械工学の分野あるいは計測の分野の双方に属する技術であるのに対して、第二引用例記載のものは、前記認定のとおり、レコード盤に記録された情報信号を再生するための音響再生方式に関するものであつて、右装置は音響機器の分野に属する技術であると認められる。そして、機械工学あるいは計測の分野と音響機器の分野とは明らかに異質の分野であつて、それらの間に同一性又は近似性があるとは認めがたいから、第一引用例記載のものに、第二引用例記載のものを適用することには、相当の困難があるものといわなければならない。

なお、被告は、「第一引用例記載のものは、針の変位を電気量に変換して検出するものであり、また、第二引用例記載のものも、針の変位を電気量として検出しているものであるから、両者は、針の変位を電気量として検出しているとの基礎的な技術分野に属する点で一致している。」旨主張する。

しかしながら、既に認定したとおり、第二引用例記載のものの目的は、レコード盤に記録された情報の再生音響出力を得ることであつて、その方式の中で、針の変位を電気量として検出することを一つの独立した技術手段として認識することはできないから、第二引用例記載のものが第一引用例記載のものと「針の変位を電気量として検出している」という基礎的な技術分野において一致しているということはできない。

以上のように、第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとは、技術分野を異にしており、しかも、変位測定装置である第一引用例記載のものと、振動検出装置である第二引用例記載のものとは、全く異なる技術的思想に基づく異なる構成の異質の装置であるから、第二引用例記載のものの技術手段を第一引用例記載のものに転用することは容易にでき得ないことというべきである。してみると、第一引用例記載のものの軸方向と横方向の変位をそれぞれ別個のセンサで検出する代わりに第二引用例に記載された軸方向と横方向の変位検出手段を用いることに格別の困難は認められず、当業者が容易に想到し得るものである、とした審決の判断は誤りであるといわざるを得ない。

3 以上のとおりであつて、審決は、本願発明と第一引用例記載のものとの相違点の判断に当たり、第二引用例記載のものの技術内容を誤認し、本願発明は、第一引用例及び第二引用例記載のものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたと誤つて判断したものであるから、違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の取消しを求める原告らの本訴請求は正当としてこれを認容する。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

ハウジングと、被測定物と接触する端部を有し軸方向に動き得るようにかつ前記軸を含む少なくとも一つの面において前記軸上の枢支点を中心として枢動し得るように前記ハウジングに支持された針とを備えたプローブを有し、前記軸方向の変位、及び前記一つの面内にあり、前記軸方向に垂直な横方向の変位を測定する変位測定装置において、前記プローブはさらに、

互いに相対的に可動な一対の部材を有し、その一方が通常前記軸から外れた第一の位置に位置し、前記針に結合されて前記針と共に動き、該一方の部材の変位を示す電気信号出力を発生する第一のセンサ(25A、125A、225A)と、

互いに相対的に可動な一対の部材を有し、その一方が通常前記軸上の第二の位置に位置するか、又は通常前記軸を含み前記一つの面に垂直な第二の面に関し前記第一の位置とは反対の側にある第三の位置に位置し、前記針に結合されて前記針とともに動き、該一方の部材の変位を示す電気信号出力を発生する第二のセンサ(25B、125B、225B)とを備え、

前記第一及び第二のセンサの出力は互いに独立しており、前記変位測定装置はさらに、

前記第一及び第二のセンサの出力を受け、これらの差に基づいて軸方向の変位及び横方向の変位のうちの一方を求める第一の電気回路手段と、

前記第一及び第二のセンサのうち少くとも一方の出力を受け、軸方向の変位及び横方向の変位のうちの他方を求める第二の電気回路手段とを備えていることを特徴とする変位測定装置。(別紙図面(一)参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

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